冬はつとめて

人生は勢い。ここはわたしの箱庭。

美味

ピエールエルメのケーキを買った。

ピエールエルメのケーキを食べるのは人生で2回目。

初めてのエルメは、4年くらい前。1人で池袋の百貨店に行ってイスパハン1つ買って、大事に持って帰って1人の部屋で静かに食べた。よくチョコレートを宝石に喩える人がいるけど、食べ物の見た目にあんなに引き込まれたのは初めてだった。きらきら、まさに宝石みたいだった。花びらが乗ってる食べ物も初めてで、貴族の食べ物だ!と思った。ケーキに葉っぱが乗ってるのはよく見るのに、花びらになると急にびっくりする。

そういえばチョコレートで宝石みたいと思ったのは、ジャン=ポール・エヴァンのショーケースを眺めた時。ああいう石畳みみたいに陳列してあるのをあんまり見たことがないから見惚れてしまった。食べたことないけど。

 

今回は、以前と違って家族みんなで食べた。6個も買った。1箱に入り切らず、2箱に分けて詰めてあった。あの、ピエールエルメのケーキを、2箱も持って歩けるなんて!!紙袋まで愛しい、あの切り抜き、なんてシンプルで独特で美しいんだろう。

ケーキの入った袋を手からぶら下げて駅まで歩く間、マスクの下は満面の笑みだった。口裂け女かってくらい口角がほっぺたまで上がってた。たぶんあの瞬間なら、ケーキにぶつかられない限りは、そこそこの非礼だってにこやかにいなせると思う。人通りの少ないところを歩いて誰にも失礼されなかったから、実際はわからんけど。

たぶん憧れのハイジュエリー買ったら、こんな感じで、指先まで揃えて背筋伸ばして浮き足立って、でも箱は揺らさないように慎重に歩くんだろうなあーと思った。「見て見て、このブランド!」と見せびらかしたい自慢げな気持ちと、「このブランドに釣り合うほどの魅力のある人間なのだろうか分不相応ではないだろうか髪の毛にもっと艶をつま先にももっと艶を足さないとこんなぼんやりした人間が持ってたら失礼じゃないだろうか」っていう変な心配とに挟まれて情緒不安定になりながらもハイになって歩くんだろうなあー。ハイジュエリーを買う予定も欲望もないけど。

いま思い返してみたら、ケーキ持って帰るときもばっちり情緒不安定だった。「電車暑くない?溶けちゃわない?過ごしやすい?揺れてない?倒れてない?」ケーキを愛護すべき動物だと思っていたのだろうか。おかげで、家でケーキを食べる段になって開封の儀をした時は、ときめきよりも無事に持って帰れた安堵感が勝った。まああんまりときめき過ぎるともったいなくて食べられなくなっちゃうからね。

 

ふつう、食べ物の話は味について書くのかもしれないけど、印象に残ってるのはデパートで選んで持って帰って開けるまでの私の心のときめき!と情緒不安定さ。

味はもちろん美味しい。ほっぺた落ちちゃうってこのことか〜!ってなったし、食べてる時も食べた後も充実感と満足感が供給過多なくらいで、もう当分ケーキはいい!半年くらい余韻に浸れる!って思ったには思ったんだけど、味より購入体験のほうがインパクト強い。買い物依存症にならないように気をつけよ。

 

バレンタインにケーキっていうのも、なかなかいいな。